[1]投球動作の支点となる肩関節 | [2]いわゆる「野球肩」 | [3]肩甲上腕リズムのチェック | [4]肩甲胸郭関節の機能チェック |
野球におけるスポーツ障害のなかでとくに多く見られるのが、投球時に使用する肩関節とその周辺部の筋肉や腱、その付着部、関節包などの障害です。今回は、投球にとって大切な肩甲上腕リズムや肩甲胸郭関節機能についての説明と、その筋肉の機能レベルを知るための可動性チェックテストを紹介します。
1) 肩関節の構造と機能
肩の運動は複雑で、いろいろな方向に動く関節であることは周知のとおりです。肩関節を構成している骨は鎖骨、肩甲骨、上腕骨の三つで、それぞれの骨が連結している関節と体幹に連結している関節によって、複雑な動きを行うことができます。
一般的に「肩関節」という場合は肩甲上腕関節部を指しますが、肩の動きに関係する関節は、ほかにも胸鎖関節、肩鎖関節、肩峰下関節、肩甲胸郭関節などがあります。それらの関節の連係した動きによって、広い範囲で肩運動を行うことができるわけです。なかでも、肩甲上腕機能と肩甲胸郭関節の機能が、上肢(腕)を動かすための主要な働きをしています。[図A、B参照]
2) 肩甲上腕リズムとは
投球動作は、肩甲骨帯と上肢の連係した動きによって起こります。肩関節が動きの支点となり、腕がレバーの役目をして、回転運動を行うわけですが、回転モーメントを高めること(スピードアップ)によって投球が可能となります。これらの動きを円滑にするためには、上肢(腕)と肩周辺の機能、そして肩甲骨帯がスムーズに、一定のリズムを作りながら動かなくてはなりません。これを肩甲上腕リズムと呼びます。
投球動作は肩からヒジ、そして指へと連動的な筋肉群が、常によい状態で働くことが重要です。投球時の肩関節へのストレスを軽くするためにも、投球は肩と腕だけで投げるのではなく、からだ全体を使って投げることが必要です。
私のところにも、肩を痛めて訪れてくる野球選手が多いのですが、筋肉調整を行いながら投球フォームも改善しています。たとえば、テークバック期から加速期で痛めやすい肩の前方部の痛みには、ヒジが出てくる肩の角度を改善させたり、フォロースルー期で痛めやすい後方部の痛みに対しては、腕の動きにともなって体幹を回旋させることで、痛めた筋群への負担を軽減しています。
3) インナー筋とアウター筋
投球動作は肩関節が支点となるわけですが、その肩関節(球関節)の特徴は、可動性が広く、外転・内転・外旋・内旋・挙上・後方伸展など、いろいろな方向に動くことができる反面、不安定性も高いと言えます。よい投球をするためには、肩甲骨帯にある肩甲骨臼蓋に上腕骨をはめ込み、回転させる動きを安定させ、上腕を動かす筋肉のパワーと柔軟性を、より高めなくてはなりません。
肩甲骨と上腕骨を結んでいる筋肉には、深層のインナー筋と、表層のアウター筋があります。[図C参照]
インナー筋とは、肩甲骨の内側と外側に付着している肩甲下筋、棘下筋、棘上筋、小円筋などの比較的筋容量が小さく、肩甲骨に付随している筋群を言います。インナー筋は肩甲骨に上腕骨をしっかり引き寄せ、安定性を図る働きを持ちながら、肩関節の動きに関与しています。
インナー筋の外側にある大胸筋、三角筋、広背筋などの大きな筋群をアウター筋と言います。アウター筋はインナー筋の働きをサポートして、より円滑に肩関節を動かすとともに、肩回転のスピードを速め、よりパワーアップさせる役割があります。
さらに、インナー筋やアウター筋とともに重要なのが、脊柱と肩甲骨をつないでいる筋群(僧帽筋、肩甲挙筋、大・小菱形筋)と上腕から肩甲骨に付着している筋群(上腕二頭筋、上腕三頭筋、烏口腕筋)です。それらの筋群の機能もプラスされて肩甲骨と上腕骨でつながれ、付着部である腱板とバランスをとって連係しながら、上肢を広範囲に、かつ、スムーズに動かし、肩甲上腕リズムを作っています。
したがって、それらの筋肉の筋力、筋持久力、柔軟性、コントロール性が、投球にとって大切なポイントになるわけです。また、肩甲上腕リズムをスムーズに行わせるためには、肩甲骨が胸郭部上を滑らかに動くことが大切です。その働きを行っている胸郭関節の柔軟性は、肩甲上腕リズムと同様に、投球動作の要とも言えるでしょう。