[1]野球におけるヒジ関節の障害 | [2]ヒジ関節の機能と「野球ヒジ」発症のメカニズム | [3]球種とヒジ関節の障害 | [4]ヒジ関節の機能チェックテスト |
野球はリトルリーグから社会人まで、幅広く愛されているスポーツです。投げるという動作は、幼年期のボール遊びを通じて体験し、繰り返し行われることが多い運動です。
幼いときから本格的に野球をしてきた選手に多いケースとして、ヒジのスポーツ障害、いわゆる「野球ヒジ」があります。野球選手にとって、ヒジの痛みは肩と同様、投球のコントロールやスピードに大きく関係する問題です。今回は肩とともに投球動作によって負担がかかり、疲労しやすく、障害を起こしやすいヒジ関節についての説明と機能チェックの方法を紹介します。これは前回までの体幹・下肢・上肢(肩関節)の機能チェックと同様に大切です。
リトル期においては、投球フォームの問題や筋肉の発達が練習量に追いつかず、オーバーユーズ(使い過ぎ症候群)となり、投球に必要な筋肉やその付着部に炎症を招いて痛みが起こるケースが多く見られるようです。野球が大好きな子どもたちは少々の痛みがあっても練習を続け、症状をさらに悪化させてしまう場合があります。リトル期のスポーツ障害発症のメカニズムと同様、骨や筋肉が発達する年齢が第二次成長期である小学校高学年・中学生から高校生においても、投球数や投球フォームとヒジの障害には、かなり密接な関係があると思われます。
オーバーユーズと機能的に無理な力をヒジという支点にかけることは効率が悪く、同一の量を投げたとしても投球に関わった筋群の疲労度は違ってきます。リトルリーグから野球に本格的に取り組んだ児童の場合、高校野球に至るまでの練習時間と投球数は計り知れないでしょう。中学生から始めた高校球児とは大きな差異があります。もっとも、キャリアだけでは障害の発生頻度が多いとは一概に言えませんが、少年時代にヒジを痛めた経験がある人はかなり多いのではないでしょうか。筋肉の発達する時期にあっても投球に必要な筋肉トレーニングや投球後のコンディショニングを怠ったり、フォームの改善をしないまま投球数が増えたこと(試合直前の長時間練習や試合期の連投)などに問題があるようです。また、守備位置によっても異なり、投手か内・外野選手であるかによっても差異は出てくるでしょう。
私のところにもヒジを痛めた球児が整形外科医の紹介で体育リハビリテーションに訪れてきますが、その痛みの部位はヒジの外側と内側、後方に有する場合が多いようです。また、ヒジの屈曲・伸展・回外にも運動制限や運動痛が見られます。投球動作ではコッキング期からアクセレレーション期(加速期)、あるいはリリースポイント(ヒジ伸展)に痛みが激しく、球威の低下やコントロール不良に陥るケースがほとんどです。さらに、ヒジから下位の前腕部の脱力感、握力の低下などが見られるケースもあります。
そうした球児に対しては、スポーツマッサージ、アイシング、スタティックストレッチ、PNFストレッチ、PNFトレーニングなどを施しています。そして、ヒジへの負担を軽減させるためのヒジの使い方の改善、“手投げ”から生体力学に基づく体幹を使った投球法、あるいは肩・ヒジ・手首・指を順に使っていくレイトスローイング法、アクセレレーション期におけるヒジの位置や高さなどを指導しています。その結果、痛めていたヒジへの負担が軽くなり、コントロールの向上や再発予防にも効果を上げています。
いろいろなケースを見るなかで、障害はできるだけ起こさせないように常に練習量と筋肉の状態を把握し、互いに機能レベルをチェックすることが大切であると実感しています。
どの部位でも言えますが、痛みを有すると、選手はレギュラー争いなどから精神面の焦りや不安感が強くなり、かなり痛みが激しくなるまで監督やコーチに伝えないことが多いようです。したがって、指導者は「自覚的な症状」と他覚的な(可動性)症状をチェックし、選手がいい状態でプレーできるように配慮していただきたいと思います。