[1]運動軸となる腰椎の機能 | [2]腰痛の原因と腰痛症 | [3]打撃・守備・投球と腰痛 |
[4]腰痛症球児の共通点と予防 | [5]脊柱の機能チェックテスト |
野球では主に、打つ、捕る、投げる、走るの4つの動作が求められますが、いずれも腰部の筋群の疲労は激しいと言えます。
打撃の際、腰の軸をしっかりと安定させ、腰椎の可動性を考慮した回旋法でスイングすると内部応力が生まれ、反力が増し、腰への負担も軽くすることができます。しかし、図Gのように軸が不安定なまま腰を回すスイング法だと、テイクバック期からインパクト、フォロースルーまで、腰部の回旋運動角度より大きなねじれが起こり、回旋時のパワーを制御する軸がないまま、ねじれてしまいます。
そうすると、体幹部をただひねっているだけのスイングになってしまい、フォロースルーでは脊柱の過度な回旋をしながら伸展(そり返り)する動作でフィニッシュすることになります。その結果、腰の中心にある組織(椎間板や椎間関節)や回旋筋が付着する横突起や棘突起などに負担がかかり、疲労やダメージをあたえやすくなると考えられます。守備も腰への負担となります。なかでも中腰姿勢は、腰背部筋群に負担が大きくかかります。これは力学的に考えますと、上半身が支点となって腰部から遠くなり、レバーアームが長くなるため、力点として働く腰背部筋群に大きな力がかかることになるわけです。
投球動作においては内野であるか外野であるかの守備位置によっても、腰へのストレス度は異なります。
内野手はボールを処理するとき、サイドに急激に体重移動しながら捕球して、無理な体勢からボールを投げることが多く求められます。図Hのように、前屈から回旋、背屈(伸展)、回旋しながら前屈という動作を素早くこなさなければならず、投げる方向に体勢を早く向ける必要があるので、運動軸としての腰にかなりの負担がかかります。腰痛を訴えて私のところに訪れる球児たちも、内野手のほうが多いようです。
外野手の場合は、内野手に比べて前方でボールを受け止め、時間的に体勢も整えやすいことが多いので、無理なひねりや方向転換の頻度は少ないようですが、遠投が求められるため、投球動作に必要な運動軸に対して大きな負担がかかります。
投手においては投球数が多く、投球に必要な筋群の疲労を招きやすいことは言うまでもありません。とくに図 I のようなスタンス幅が広く、重心を低くして投げる投手ほど、テイクバックからアクセレレーション期の体幹の伸展性が強く、フォロースルー期で上半身をかぶせていくときに軸脚に体重が乗り切れず、腰が後方に残り、腰背部の筋肉の張力が求められ、疲労しやすくなります。
このような筋肉の収縮はエキセントリック収縮といい、筋肉が力を発揮する上でもっとも不利な状態でエネルギーを出さなければならないので、筋疲労や筋肉痛も起こりやすくなります。
こうした投球法の技術的にみた善し悪しは別として、筋肉の疲労度から考えると、繰り返し投球することで、腰部への負担は大きくなると言えます。