[1]野球における股関節と下半身の主な筋肉の働き | [2]股関節と下半身のパフォーマンス&チューブトレ | [3]股関節と下半身のPNF基本パターン | [4]PNFトレーニングの注意点 |
今回は、野球の要である腰をはじめ、バッティングでのボディターンや投球時での軸と“カベ”をつくりやすくする股関節とその周囲にある筋肉、および、足を軽快に動かすのに必要な筋肉に対するPNFトレーニングを紹介します。
股関節は骨盤を支え、頭部と体幹、下肢の重みを持ち上げている関節です。また、体重がかかっても骨盤と大腿骨をつなぐ靱帯がしっかりと斜めに付着しているため、肩関節と同じ球関節であるにも関わらず、安定している関節と言えます。
この関節は伸展、屈曲、外転、内転、外旋、内旋の方向に動きます。歩くときや走るときにはねじれ(回旋)ながら働くことで骨盤を水平に保ち、姿勢を左右上下にぶれることなくバランス良く体重移動を行えるようにします。このことは、ランニングや守備における敏捷性にとって、とても大切な働きです。
野球は股関節の状態が大きな関わりを持つスポーツであり、常に柔らかくパワーを保ちたい部位です。なぜなら、投球時の体のねじれをつくるときにアクセレレーション期での加速やフォロースルーの“カベ”となり、より肩回転トルクの加速をかけるためです。
そして、打撃においては骨盤をスムーズに回転させ、その回転をしっかり止める“カベ”となるのも、股関節内旋(ねじれ)の動きなのです。
もし、この筋群を股関節の締めのときにうまく使うことができなければ、バッティング時の“カベ”がつくれず身体ごと回ってしまい、軸もぶれ、骨盤内のお腹の力も抜けて、回転不足となり、バットのヘッドスピードが落ちて、パワー不足となってしまうでしょう。守備についても股関節は重要で、スライディングや一歩目の踏み出しを他方向に大きくできるかどうかも、この関節の柔らかさとパワーしだいなのです。また、これらの股関節の動きが円滑にできるための重要な関節である、仙腸関節の働きも忘れてはならないでしょう。図Aに示したように、この仙腸関節が上方すべり、下方すべりすることで足の振り出しがよくなり、脊柱の柔軟性も得られるからです(体幹が前屈時に下方へすべり、伸展位で上方すべりが起こる)。
仙腸関節は腸骨と仙椎の一部とでつくられ、可動性がとても小さい関節ですが、この関節の滑らかさはスポーツにとっては大切なのです。筋肉疲労やストレッチ不足で仙腸関節の動きのなめらかさが欠如すると、膝関節屈曲(足の振り上げ、外旋、内旋)やねじれの動きが窮屈に感じるとともに可動制限(外旋、内旋方向に屈曲、伸展)が生じて、投球やバッティング時での“カベ”がつくりにくくなるばかりか、守備の敏速な動きも消えてしまうでしょう。したがって、パフォーマンスの善し悪しに繋がる股関節周囲の筋群を試合期、プレシーズン期、オフ期にかかわらず、いい状態にしておくべきことは言うまでもありません。
腰と足の連動した動きをコントロールしている主な筋群を次に挙げておきましょう。[図B参照]
1)腸腰筋
腰椎と骨盤、大腿骨を結ぶ筋肉で、足を一歩出したり、引き上げたり、骨盤の傾き(姿勢)に関係する筋肉で腰から骨盤の前方にあります。この筋肉が硬くなったり、筋力が弱くなるとお尻を後方につき出して歩くようになり、走るパワーが不足してきます。
2)中殿筋
この筋肉は、守備や投球時に一本足で立つときやフォロースルーでの身体の重みを支える軸となるために、大切な筋肉です。
3)大腿筋膜張筋
この筋肉の内旋(ねじれ)のコントロールが硬くなっても、足の関節、足の一歩が踏み出しにくく、瞬発性が衰えます。股関節の安定性にはとっては、大切な筋肉です。
4)大殿筋
お尻の後方にある筋肉で、大きな力を出します。もちろん、疲労すると、走る、守る、投打のパワー不足を招いてしまいますし、中腰姿勢の多い守備にとっては、より柔軟な動きと敏速な動きに対応する筋肉であるため、重要です。
5)ハムストリングス(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)
この筋肉は大腿の後方につき、走るときの蹴り上げとバッティングや投球時の利き足の蹴りに使われますが、疲労しやすく、柔軟性が求められる筋群です。この筋肉が硬いとプレーに支障をきたすだけでなく、腰がしっかりと働くことができにくくなります。
6)内転筋群(短内・長内・大内転筋、恥骨筋、薄筋)
足を内側に引き寄せる時に使う筋群で、運動方向に向く股関節や膝関節を安定させる働きをします。
7)内・外旋筋(中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋)
他方向への踏み出しや一本足で立つ動作のときでもバランスを保ち、股関節を安定させ、回転の“カベ”となるときに力強く働きます。