[1]肩関節の機能と投球による障害 | [2]トレーニング前の可動域チェック | [3]肩のPNFトレーニングの方法 |
今回は肩のPNFトレーニングとストレッチを紹介しますが、肩は野球においてもっとも故障しやすい箇所です。肩関節の構造や機能、「野球肩」と機能チェックについては連載第2回(97年10月号)で紹介しましたが、もう一度、肩はどのような働きを持つ関節なのか、投球時にどのようなストレスがかかり障害につながるのかを、おさらいします。
肩は投球にとって“命”であり、野球人生を長く過ごすためにも守っていかなければなりません。野球で発生しやすい肩のスポーツ障害には、腱板(ローテーターカーフ)炎、上腕二頭筋腱炎、肩峰下滑液包炎、ルーズショルダーなどがあり、さまざまな障害を起こしやすい関節であることを指導者と選手は意識して、最善のケアに努めることが大切です。
肩は肩甲骨と鎖骨、上腕骨、胸郭部の肩甲骨複合体として働いている関節です。当然、それらを動かしている筋肉は数多くあり、一般的には、インナー筋(棘下筋・棘上筋・小円筋・肩甲下筋)とアウター筋(三角筋・大胸筋・広背筋)がよく知られています。投球時に大切なのは、肩甲骨複合体をいかにリズミカルに動かせるかであるため、腕と肩甲骨をつなぐ筋肉だけでなく、脊柱から肩甲骨、肋骨と肩甲骨、骨盤と上肢帯を結ぶ筋肉などがそれぞれ重要な働きを担います。[図A参照]
投球による肩の疲労は、フォーム(サイドスローやオーバースロー)や投球数にも関係することから、当然投手に多く見られ、それがスポーツ障害につながるケースがあります。投球フォームからくる痛みの部位について、私どもへ訪れて来た選手の例をいくつか挙げてみましょう。
サイドスロー投手は、アクセレレーション期に大きな負荷がかかる前方部にある腱板がルーズになったり、炎症を起こしたと考えられるケース。オーバースロー投手は、アクセレレーションからフォロースルー期にヒジを前方へ送り出す動作で、肩外転部にある棘上筋腱と上腕二頭筋腱のねじりの際のストレスからと考えられる腱板炎を起こしたケース。また、三角筋下の滑液包炎や、肩の前方にある烏口肩峰靭帯と上腕骨の圧迫から生まれやすい前方の滑液包炎。あるいは、常に腕を引き上げる動きが必要なため、鎖骨の回転が鈍くなり、肩鎖関節や胸鎖関節のすべりの悪さなど、フォームに関係したと考えられる症例が多く見られました。
肩をはじめとしたスポーツ障害の対策は、予防に優るものはありません。一度、障害を起こすと、それに伴う体力低下や患部の機能低下が選手個人にもチームにとっても大きな損失を招くことになるだけでなく、スポーツ現場に復帰するために多大な努力と時間が必要になるものだからです。したがって、予防のためにも、日頃から必要なトレーニングとケアをしっかりしておくことが大切です。