[1]肩のねじれPNFパターン | [2]肩外転90度保持での外旋と内旋のPNF | [3]肩のPNFとゼロポジション |
[4]投球腕をつくるPNFトレーニング | [5]投球フォームのトレーニング |
投球につながるPNFトレーニングは、肩はもちろんのこと、全身のバランスによって習得させねばなりません。そのトレーニング法とは、写真22~27の流れのなかで、下半身と上半身と体幹の使い方(タイミング)を連動させていきます。これらの連動した動きは、ゆっくりとした動作から少し早めのテンポへと変化させ、投球フォームを覚えさせてください。
常に述べてきましたが、投球は肩、腕だけに頼らず、全身を効率よく使い、全身で投げるという考え方を大切にしてほしいと思います。これは支点になる肩関節を守ることや、球威の面から考えても大切な点です。体を効率よく使うフォームを写真を参照しながら、紹介していきましょう(右投げの場合)。
1) ワインドアップから両脚の内側を締めるように股関節の内側の筋肉を内旋(ねじり)させ、骨盤内にある体幹筋(下腹筋・腹斜筋・腸腰筋)をしっかり締め、腹圧を高める意識を持つ。振り上げた左脚のつま先は、上向き(背屈)でテークバック時にカカトから着地できるよう準備しておく(写真22)。
2) ワインドアップ時からテークバックに入るにあたり、1)の締めから左脚を先行させず、体幹のねじれをつくるためにお尻から投球方向へ移動し、左脚のカカトから着地させる。
3) 着地と同時に、腰、骨盤、大殿筋、下肢が投球時の土台となるため、少し腰を後方に引き、上体のほうは少し前傾させ安定した腰をつくる(写真23)。
4) この動作と同時に上半身は胸を張り、粘りを出すためしっかり肩甲骨を中心に引き寄せ、背中は伸展させる。このとき、両肩は伸展位で90度外転から内旋位となり、ねじりがつくられる。前腕は下垂である。
5) テークバック期では顔を投球方向に向かせ、体の向きはアクセレレーション期で粘りとねじりを大きくするために右を向き、少し体重は右体重となっている。
6) 右体重から左へ移行するコッキング期に入り、体は少しずつ投球方向に変化、左脚へ体重がかかり始める。体のバランスを取りやすくするのに、左ヒジを屈曲させ、体に引き寄せ、左ワキを締めておく(写真24)。
7) このとき、右腕は外旋をしながらゼロポジションの位置に動いていき、アクセレレーション期を迎えます。(この角度でのアクセレレーションは、肩を守るためにも大切なため、この角度での局所PNFを繰り返し取り組むべきでしょう)。
8) アクセレレーション期では体のバランスを保ちながら、体をねじり、左脚へ体重をかけていきます。力強いリリースを迎えるには、体重をしっかり受け止める左のカベが必要となります。そのカベは、左股関節のねじれとその方向にあるヒザ、つま先の締めでつくられます。
9) アクセレレーション期でのヒジの使い方は、肩の胸郭複合体の働きに連動させ、胸、肩、ヒジ、手指の順に投げる方向へ動かし(写真25)、体のねじりを使うことで、よりパワーアップしたリリースを迎えることができます(写真26)。
この投球法はフォロースルー期での腱板(後方)への負担を軽くするばかりか、体全身のねじりが対角方向にある右腕、左下肢に力が連動しやすくなるため(写真27)、当然、球威が上がりやすくなると思われます。
ある高校生投手は1年生時のMAX128キロを、全身の筋力を高めることとこの投球フォームへの改善で、3年生時において、体格、体型の変化はあまりないのに、MAX138キロまで球速を高めました。これは一例であって、私どものところを訪れている多くの球児たちに、コントロール性と球威を高めるなどの効果が見られています。
今回は、バイオメカニクス(生体力学)にもとづき、体全体のバネを使い、大きなパワーを生み出すのに、効果性が得られた投球法のトレーニングを紹介しました。参考にしていただければ幸いです。
【参考文献】
『科学する野球/投手篇』(村上豊・著、ベースボール・マガジン社)、『部位別/スポーツ外傷・障害/上肢』(石井清一・編集、南江堂)、『リハビリテーション医学講座第4巻/神経生理学・臨床神経学』(中村隆一・編集、医歯薬出版)、『臨床PNF』(P.E.サリバン他・著、メディカル葵出版)、『PNFハンドブック』(S.S.アドラー他・著、クインテッセンス出版)