[1]肩関節の機能と投球による障害 | [2]トレーニング前の可動域チェック | [3]肩のPNFトレーニングの方法 |
肩関節の動きが悪い場合、それが筋疲労によるものなのか、関節部の障害なのかによって、アプローチは異なってきます。後者の場合は十分な知識と技術が必要なため、ここでは前者の筋コンディショニングのためのPNFテクニックを紹介します。
まず、肩関節の基本的な動きに対してのアプローチから入ります。肩の動きには屈曲、伸展、内転、外転、外旋、内旋、水平外転、水平内転があります。それぞれ主働筋と拮抗筋があり、強化とストレッチをしながらインナー筋とアウター筋の調節を行います。肩の場合、上腕骨が肩から動いていないか、しっかり肩甲骨窩の中で動くよう注意してください。
徒手による抵抗のかけ方としては、基本的に可動域全域に負荷をかける気持ちでゆっくりと軽めの負荷で10回ぐらい運動し、ウォームアップしたあとに少し抵抗を大きくして、6~8回を目安としてできる強度で行います。その際、必ず休みを取り入れ、その間に使った部分のストレッチを行います。
肩にとっての負担の大きい回旋に働くインナー筋は、外筋や関節内のウォームアップを行ったあとに実際に投球に必要なフォームに対してPNFを行うことで、連動した筋群を鍛えられます(次回に紹介)。今回は、部分的に筋力を高めるPNFトレーニングを紹介します。
1) 伸展(小円筋、広背筋)
ヒジを軽く屈曲し、少し前方よりワキからヒジが離れないように後方へ引いていく。その際、介助者は上腕三頭筋に抵抗を与え、後方へ引かせないようにする(写真1)。
2) 前方へ押し出す(三角筋前部、大胸筋、烏口腕筋)
1)と同じヒジ屈曲位で、体側に沿わせて前方へ押し出していく。介助者は選手の前方でしっかりと前後のスタンスをとり、押す力に対して押させないよう可動範囲に抵抗をかける。選手も上体が変化しないレベルで、肩の前方と胸部を意識して行う(写真2)。
3) 伸展+押し出し
1)2)を連動させ、どちらの動きにも抵抗をかける。スローリバーサルを用いる。軽い抵抗で前方へ、軽い抵抗で後方への動きから少し抵抗量を上げ、コントラクトさせていく。その際、上腕骨が前後に動かないように気をつけて片手でサポート(写真3、4)。
4) 外転(三角筋中部・棘上筋)
ヒジ屈曲位で負荷を軽くする。介助者はヒジ関節の少し上位に抵抗を置き、外転方向へ動こうとするのに対して抵抗をかける。軽い負荷から行い、少しずつ抵抗量を上げていき、45度、85度外転位でホールドリラックスを用いてみてもよい。その際、上腕骨が上方に動かないように片方の手で介助が必要(写真5、6)。
5) 内転(広背筋・小円筋)
外転位と同じく、ヒジを軽く屈曲。介助者は手をヒジの下側に置き、内転方向に動こうとするのに抵抗をかける。その際、抵抗量が大きすぎて肩が上方に上がらないようチェック。最初はコントラクトによって抵抗をかけ、可動域の最終域でホールドで6秒間、静止さえる方法でもよい(写真7)。
6) 外旋
ヒジを屈曲させ体側に置き、手は中間位に置く。ヒジ中間位より回外させながら、外旋方向へ45度動かす方向へ抵抗をかける。可動域全域に対するコントラクトでの抵抗と、45度最終域でのホールドと組み合わせて行う(写真8)。
7) 内旋
ヒジを屈曲させ、体側で手を中間位に置く。その位置より内旋方向へヒジ回内させながら行う。その間、内旋させないように抵抗をかける(写真9)。
8) 外旋+内旋
6)7)の動作を組み合わせ、外旋方向と内旋方向へ互いに3回ぐらいコントラクトさせて抵抗をかけ、最終可動域でホールド(写真10)。
9) ヒジ屈曲(上腕二頭筋)
ヒジ屈曲で体側より少し前方部に位置する。ヒジが屈曲する動きに対して抵抗をかけ、最終域でホールド(写真10)。
10) ヒジ伸展(上腕三頭筋)
仰臥位でヒジ屈曲。介助者はヒジを固定し、伸展する方向に対して抵抗をかけ、コントラクトから最終可動域でホールド(写真11、12)。
11) 水平外転・内転(大胸筋・僧帽筋・菱形筋)
腕を伸ばし水平外転位に置く。介助者は上腕骨が固定し動揺しないようにチェックしながら、前方20度くらいと後方20度くらいに抵抗をかける。前方10回、後方10回と分けてPNFを行い、そのあとに前方と後方に対してコントラクトさせる方向をとる。その際、上腕骨の動きに注意。上体を使わず、腕の動きだけで行うことがポイント(写真13、14)
12) 前方挙上(三角筋前部と前鋸筋・大胸筋)
仰臥位で前方から両手で上方へ挙上。両手を前で合わせ、屈曲90度くらいまでを可動として下方から挙上させる。その際、介助者はコントラクトで抵抗をかけ、90度屈曲位くらいで6秒ホールド(写真15)。
13) 伸展(僧帽筋下部)
前方90度くらいで保持させ、両手を下方へ動かす。その際、抵抗はコントラクト最終域でホールド(写真16)。
14) 前方挙上+伸展
12)と13)の二つの動作の組み合わせ。
これらの局所的なトレーニングのあとに、それぞれ使った筋肉をストレッチします。また、トレーニング前にもストレッチは必要です。それぞれ10~20秒くらいの保持で、ゆっくり息をはきながら行います。
● 肩と肩甲骨のストレッチ[図B参照]
(1) 伸ばした腕を片方の腕でかかえ込み、前方より自分の胸に引き寄せ、三角筋後部線維を伸ばす。
(2) 手首を甲側に折り両腕を後ろに反らせ、肩甲骨を寄せ合うような気持ちで両手を後方へ引き、大胸筋と三角筋前部を伸ばす。
(3) 頭の後ろで両手を組み、左右に引っ張り、三角筋と広背筋、小円筋を伸ばす。
(4) 組んだ両腕を前方に伸ばしながら押し出し、肩甲骨を広げるようにしながら上背部を伸ばす。
(5) 組んだ両腕を上方に伸ばして、側筋を伸ばす。
(6) 腕を伸ばしたまま手のひらを右回旋、左回旋させ、腕をねじって肩のインナー筋をストレッチ。
【参考文献】
『部位別/スポーツ外傷・障害3/上肢』(石井清一・編集、南江堂)、『リハビリテーション医学講座第3巻/運動学』(斎藤宏・編著、医歯薬出版)、『リハビリテーション医学講座第4巻/神経生理学・臨床神経学』(中村隆一・編集、医歯薬出版)、『臨床PNF』(P.E.サリバン他・著、メディカル葵出版)、『PNFハンドブック』(S.S.アドラー他・著、クインテッセンス出版)、『新・徒手筋力検査法』(H.J.ヒズロップ著・共同医書出版社)