[1]「野球ヒジ」と投球フォーム | [2]コントロールを高めるヒジと手指のコンディショニング | [3]球種ごとのヒジ、手首、手指のPNF |
それでは、直球、カーブ、それと高校レベルでも多く使われるようになってきたフォークボールといった、それぞれの球種を投げるための筋肉に対してのアプローチを紹介していきましょう。その際、手関節の動きだけでなく、連動して働く指の動かし方にも注目してトレーニングを行っていかなければなりません。
1) 直球のPNFトレーニング
直球は軽い回内と手指の掌屈によってコントロールし、ボールを押し出す(写真1)ための手指の掌屈、背屈トレーニングと第2指、第3指の長掌筋と浅指屈筋、深指屈筋群と拮抗筋である総指屈筋、長母指伸筋などへのアプローチを行います。
● 手関節掌屈(橈側手根屈筋・尺側手根屈筋・浅指手根屈筋・深指屈筋)
仰臥位で、肩外転45度くらいのポジションで手のひらを上にしてリラックスする。介助者は、選手のヒジを固定して手のひらに抵抗を持たせるようにおき、押さえようとする力に対して押し返す(写真2、3)。
終了後に、写真4のストレッチを行う。
● 手関節背屈(長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋・長母指伸筋・総指伸筋)
同姿勢より手背部に抵抗を与え背屈しようとする動きに抵抗をかけ、伸筋群を強化する(写真5、6)。
終了後に写真7のストレッチをする。
● 指中手指節関節屈曲(浅指屈筋・深指屈筋)
同姿勢で第2指、第3指の屈曲方向に抵抗をかけ、指の感覚と指の屈筋などへのアプローチを行う(写真8、9)。
終了後の写真4のストレッチを行う。
● 指中手指節関節伸展(総指伸筋・示指伸筋・小指伸筋)
手のひらを床面におき、介助者は手関節部を固定し、第2指、第3指節間関節部ぐらいに抵抗をかけ、指伸筋を強化する(写真10、11)。
終了後の写真7のストレッチを行う。
2) カーブのPNFトレーニング
カーブは手関節の動きが特殊で、ヒジから回外という回転をさせながら、手関節は尺側手根屈筋、尺側手根伸筋による手指の内転という方向へ動かし、橈側手根屈筋あるいは長母指伸筋群、総指伸筋群へのストレッチが必要となります。ヒジ、手指につく伸筋群の伸展力は非常にカーブの変化を大きくさせるのに関与する筋群であることを理解し、アプローチすることが重要です(写真12)。前述の直球のメニューに加え、より回外筋、尺側手根屈筋のパワーと、橈側手根屈筋、長・短橈側手根伸筋、長母指伸筋の伸展性が求められます。また、手首の動きに連動し、第2指、第3指、母指の指骨間に働く筋肉など様々な力が必要となる球種です。
● 回内動作に伴うトレーニング
ヒジ屈曲位で指先が前方に向く位置におき、回外、回内運動を行う。
ア・回内の場合(円回内筋、方形回内筋)
手のひらのほうに介助者の手をおき、軽い回外位(写真13)より、回内の方向に抵抗をかける(写真14)。10回を1セットとして、3~5セット行う。
イ・回外の場合(上腕二頭筋、回外筋)
手の背部に介助者の手をおき(写真15)、軽い回内位より回外の方向に抵抗をかける(写真16)。
● 上腕二頭筋
仰臥位で手のひらを上に向け、手のひら、または手関節より上方に抵抗を与え(強度によって位置を変える)、コントラクトで抵抗をかけるか(6~10RM)、軽い負荷で90度屈曲位までコントラクト、最終域でホールド(6秒~10秒)リラックスさせる(写真17)。抵抗は筋肉状態をみて負荷加減をする。それぞれのトレーニング終了後、写真18のようにストレッチを行う。
なお、ヒジ伸展に働く上腕三頭筋のトレーニングは、前回の投球腕をつくるPNFで紹介したメニューを参考に行い、終了後は写真19の方法でストレッチしておく。
● カーブヒジ、指の連動トレーニング
ヒジは回内位におき、手のひらで介助者の手をボールと同じような感覚でつかみ、選手はカーブの回転のイメージで動かそうとするのに対して、介助者がその動きを少ししか生かせないように抵抗をかける(写真20、21)。
3) フォークボールのためのPNFトレーニング
直球での手、指、ヒジ(回内・回外)の筋肉にプラスして、次のようなトレーニングを行います。フォークボールは第2指と第3指骨間に十分ボールを挟む力があることが求められ、一般的にボールを指が屈曲した状態で固定し、そのまま直球のパワーで投球し、変化させる投げ方です。そのために指の内転筋群、長母指屈筋、母指対立筋などのパワーが求められます。
● 骨間筋、虫様筋トレーニング
手のひらを下に向け第2指、第3指の指骨間に抵抗をかけ、選手は挟むように指を締める。このような方法で母指、第2指骨間にも抵抗を与える(写真22、23)。
第2指と第3指に抵抗をかけた後は写真24のストレッチを行い、可動域を広めることも大切。
● 投球フォームにおいての手指のトレーニング
選手は、座位でテークイバックからコッキング、そしてアクセレレーション、リリースポイントからフォロースルーまで連動して動かす。介助者は選手のヒジをサポートしながら、第2指、第3指の指を保持し、抵抗をかけていく。
このトレーニングは投球時の肩、ヒジ、指の使い方と同じ動きで行うことが特徴で、実際の投球の際の指のしなりとリリースポイントでのイメージ獲得につながっていく(写真25~29)。
【参考文献】
『科学する野球/投手篇』(村上豊・著、ベースボール・マガジン社)、『部位別/スポーツ外傷・障害3/上肢』(石井清一・編集、南江堂)、『リハビリテーション医学講座第3巻/運動学』(斎藤宏・編著、医歯薬出版)、『新・徒手筋力検査法』(H.J.ヒズロップ著、協同医書出版社)