[1]基礎体力づくりの重要性 | [2]筋力アップのためのトレーニングの原則 | [3]筋収縮の方法によるトレーニングの分類 | [4]PNFトレーニングとは |
筋力増強トレーニングで大切な強度の決定には、現状の最大レベルを知らなければなりません。簡易という点では、計器類を用いた測定(握力計や背筋力計など)があります。しかし、測定部位にも限りがあることから、スポーツにおけるパフォーマンス性を評価するのに必ずしも適しているとは言えません。そこで、いろいろな要素を判定できるスポーツパフォーマンステストが考案されています。[表4参照]
それは、一定の運動動作を行わせて、その出来ばえから筋力を評価しようとする方法です。このテストは静的な筋力テストではなく、動的な筋力を評価しようとするもので、筋力だけの能力に限らず、実際に運動を起こす条件である要素も含めたパワーや筋持久力をも関与するので、運動能力をある程度知ることができます。運動能力をある程度、知ることができます。それらの評価を向上させることで、投打や守備にも好影響を与えていくことでしょう。
さて、いよいよこの連載の表題にもなっているPNFトレーニングとは何か、という部分に入っていきたいと思います。詳しくは次回になりますが、まずはPNFの基本的な概念を理解して下さい。
身体には大筋群と小筋群とがあり、互いに協力しながら一つの動作を起こしています。小筋群は筋容量が少ないことからパワーを引き出すには、不利な筋群ですが、関節の安定や微細な動き(協応力)に関わって重要な働きをするため、常によい状態を維持しておく必要があります。
球児らが取り組んでいるトレーニング法は、マシンで大筋群、チューブやフリーウェートで小筋群を鍛えているのが一般的だと思われます。しかし、往々にして大筋群のトレーニングが主体になり、小筋群のトレーニングまで至らないことが多いのではないでしょうか。そのため、小筋群の疲労が早く現れ、投打において必要なパワーやコントロールが低下しやすくなってくるわけです。
小筋群をいい状態に保つためのトレーニングとしてチューブやダンベルを用いた方法は、PNF(神経筋固有受容器促通)効果も高いのでおすすめです。意識性を高めることで中枢から指令が主動筋である筋群の受容器に送られ、同時にその情報は固有受容器から中枢へ伝達されます。
それにより拮抗筋が弛緩、伸展性が高められ、主動筋の働き(筋収縮性)促します。その働きで、中枢からの神経伝達と末梢からの伝達性とともに、筋力や関節角度の供応力も高めることが可能です。
実際のプレーにおける機能を高めるためには、投打や打撃のフォームにつながる関節の動かし方に対して、速度のコントロールをしたり、ウェートを関節角度によって変化させることが大きなポイントです。この点から考えますと、徒手による抵抗(PNFトレーニング)は負荷の加減が自由であることから適していると言えます。それだけに、徒手によるPNFは、支点となる関節の正しい位置やフォームに直結する関節角度において、負荷をかけていくことが重要になります。
PNF(proprioceptive neuromuscular facilitation)とは日本語で、神経固有受容器促通手技法といわれています。もともとPNFは理学療法の手技の一つで、中枢神経に障害があり、運動が起こりにくい疾患に対して、抹消からの介助や抵抗運動によって、筋肉・腱・関節などの受容器に神経(遠心性)を促通させ、同時に末梢から中枢への神経(求心性)も促通させ、運動の供応力や調整力を高めて運動能力の回復を図ることを目的としているものです。
これが近年、スポーツ選手の運動能力を高めるために応用され、スポーツPNF、あるいはPNFトレーニングとして、注目を集めるようになってきました。次回以降、より詳しい内容と実際のトレーニング法について触れていきます。
【参考文献】
『選手とコーチのためのスポーツ生理学』(エドワード・フォックス著、大修館書店)、『体力の診断と評価』(日本体育学会測定評価専門分科会・編集、大修館書店)、『スポーツ外傷・障害とリハビリテーション』(福林徹・編集、文光堂)、『アトラスで学ぶ生理学』(高田明和・編集、丸善株式会社)