[1]PNFトレーニングの方法 | [2]PNFテクニックパターン | [3]PNFでの抵抗のかけ方 | [4]体幹のPNFトレーニング |
では、実際に私どもが行っている野球に必要な体幹の強化を目的としたPNFトレーニングの具体的な方法をいくつか紹介していきます。
体幹を強化するために屈曲(前方筋群)、伸展(脊柱起立筋)、側屈(腹斜筋・腰方形筋)、回旋(脊柱にある多裂筋・回旋筋・腹斜筋〈外・内〉・腰方形筋)などの筋群の強化を図ります[図1~4参照]。体幹のPNFに入る前に、前号で紹介したような軽いストレッチを行い、体幹の筋肉をほぐしましょう。
A) 下腹筋、腸腰筋、前脛骨筋のPNF
背臥位にて膝伸展から片方だけ屈曲し、下腹筋、腸腰筋、前脛骨筋のトレーニングを行う。最初は軽く自動か介助で動かし、動く方向が理解できれば足首は背屈にし、ヒザを曲げ、股関節屈曲方向に動かす(写真1)。
抵抗はコントラクトリラックスを5回ほどくり返し、ホールドリラックスを3回くらい行う。セット回数は個人の能力レベルによって異なるため、トレーニングを受ける選手とコミュニケーションを図りながら行う。抵抗をかける人は「ヒザを胸のほうへ引き上げて、手によって押し下げられないように頑張って」と声をかけながら手技をする。
片側ずつ行い、その後、両足になり、上の要領と同じく、つま先を背屈にしてその部分に抵抗をかけ、下腹に力を入れながら股関節屈曲をする。(写真2)。真っすぐな方向と斜めから中央へ引き寄せさせる。これによって骨盤内の腹斜筋にもいい刺激が入る。
トレーニング後には脊柱起立筋のストレッチを行う。
B) 腹直筋のPNF
体幹の屈曲筋である腹筋。頭部を両手で固定し、アゴは引いておいて腰部は床に押し付けるような気持ちで、息を吐きながら上体を起こす。その際、抵抗を与える人は胸骨の上部に軽く手をあて、力を加減しながら抵抗をかける。(写真3)
肋骨の下方に抵抗をかけない。二人で抵抗をかける場合は抵抗を与える人が選手の頭の上方に位置し、両手で鎖骨の下で胸部の上方両端を押さえる。(写真4)
コントラクトリラックス連続5~10回くらい行う。後にコントラクトホールドで10秒静止しに変え、5回くらい。PNF後は、10~20秒静止するスタティックストレッチで腹筋を伸ばす。
C) 下腹筋・上部腹筋群のPNF
背臥位で下肢の屈曲を伴い、上体と下肢を同時に屈曲することで下腹筋群と上部腹筋群が鍛えられる。(写真5)
コントラクトホールドリラックステクニックで5秒静止後にリラックスする。筋力に応じてホールドの時間を10秒前後に伸ばす。
D) 腹斜筋のPNF
Cと同じ要領で片足と片側の上部に抵抗をかけ、上体は斜めに起こそうとするのを押さえる(写真6)。
コントラクトホールドで5秒くらい静止。左右連続で5回行う。
E) 腰方形筋・腹斜筋のPNF
側屈。左側が上側にあり、床に右側がつく位置のときは左脚を少し前方に屈曲し、下肢を固定する。その状態から左肩甲骨を左骨盤に近づけるようにゆっくり屈曲する。その際に腕の下あたりに軽く抵抗をかけ、側屈させる。(写真7)
抵抗のかけ方はコントラクトリラックスを用いる。要領は同じである。このトレーニング後には腰部、腹斜筋、側筋のストレッチを行う。
F) 脊柱起立筋・大殿筋・ハムストリングスのPNF
腹臥位で対角をなす右手と左足を伸ばし、もう片方の手と足は床に固定する。抵抗を与える人は側面に座位となり、肩甲骨上端を右手、左手は大腿部に置き、それぞれ抵抗をかける(写真8)。
このときに注意することは手の位置である。肩の屈曲に対する抵抗は肩甲骨に置くということ。トレーニング開始の手が屈曲・外転・外旋、足が伸展・外転・外旋の方向へ動かした位置より、脊柱のトレーニングを開始する。
負荷はコントラクトリラックスからホールドリラックスに変え、レベルに応じキープ。時間は変える。PNF後は腰部、腹斜筋のストレッチを行う。
G) 広背筋・腹斜筋・腰方形筋のPNF
腹臥位で両手は後方か肩のラインに肘屈曲で置く。抵抗を与える人は足を選手のヒザから足部のほうへ引っ掛けるように置き、大腿部から下肢が動かないように体重で固定する。選手は右斜めへ伸展、左斜め伸展とそれぞれ3回ずつ伸展する。その際、肩甲骨帯に抵抗をかけ、広背筋・腹斜筋・腰方形筋などを強化する。(写真9)。
これもコントラクトを左右くり返し、ホールドリラックスに移行。すべて無理のないように、選手は呼吸のペースと運動のタイミングを合わせ、意識をもって抵抗に対して反対の動きを行う。
トレーニングさせる人は、大きなかけ声で「1、2、3、4、5」とキープ中の時間を数え、「はい、リラックスして」「もう少し頑張って」などとリードする。
今回はグラウンドや床の上で行える簡単なPNFを紹介しました。平地や床面での体幹トレーニングでは、伸張力を利用しての収縮は誘発しにくくなります。この条件のなかで少し伸張性を誘発するとすれば、開始姿勢が到達可動域の中間位くらいに置き、軽く重力の方向に押した後に、すばやく運動方向へ抵抗をかけると一瞬の引き伸ばしを感じ、筋力増強に効果があります。
以上、いろいろなパターンが数多くありますが、いちばんやりやすい体幹トレーニングから行ってください。また、腰の痛みや、動かして痛みがある場合は、痛みが起こらない角度まで自動で動かし、最終可動域に達したところでホールドリラックスしていきます。
力を抜く際にはゆっくり抜き、身体も床に沿って降ろしてください。また、今回の体幹パターンは腰に痛みがあったり、運動制限があったり、神経症状がある場合のPNFコンディショニングパターンではないので、あくまで予防・強化パターンとして取り組んでください。
【参考文献】
『リハビリテーション医学講座第3巻/運動学』(斎藤宏・編著、医歯薬出版)、『リハビリテーション医学講座第4巻/神経生理学・臨床神経学』(中村隆一・編集、医歯薬出版)、『臨床PNF』(P.E.サリバン他・著、メディカル葵出版)、『PNFハンドブック』(S.S.アドラー他・著、クインテッセンス出版)、『新・徒手筋力検査法』(Helen J.Hislop著・共同医書出版者)